一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
何事かとメアリが扉の方へと視線をやると、雨に濡れたマントを被ったウィルが息を切らし立っている。
その碧眼が忙しなく店内を見回し、メアリの姿を捉えると僅かに見開いた後、急ぎ足で歩み寄った。
ずっと雨に打たれ続けていたのか、ウィルのマントから雨の雫がポタリポタリと落ち、足元の木床に染み込んでいく。
「ウィ、ウィル?」
落ち着かない様子のウィルにメアリが声をかけると、ウィルは椅子に腰かけているメアリの腕を掴んだ。
「ジョシュア先生が呼んでる」
「え?」
「急患だ。急げ」
「え、ちょっと待って」
強引に腕を引かれて立たされたメアリは慌てて椅子に引っ掛けていたフードつきのマントを手にした。
「ごめんねエマ! また今度!」
「え、ええ」
店の外に出ると大粒の雨が髪を濡らし、メアリは急いでマントを被る。
ウィルはすぐそばに繋いでいた黒鹿毛の馬の横に立つと、メアリに乗るように促した。
「私、乗馬はあまり得意じゃないんだけど」
普段、急患が出た時などはジョシュアと共に馬車に乗っている為、馬の背に乗ったことは練習のみの数度ほどしかない。
護身術にしてもそうだが、ジョシュアにいつか役に立つからと言われて習ってはみたものの、才能がないのかあまり上達しないのでしっかりと身に着く前に辞めてしまっていた。
そのことをメアリはここ数日で二度後悔している。
一度目は野盗に追われた時。
二度目はまさに今だ。
護身術も馬術も、諦めずにしっかりと習い続けていれば、ジョシュアの言う通り役立ったというのに。