一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
ウィルは馬から降りると、メアリにもそうするように促す。
メアリは素直に従い、相変わらず雨粒を弾いて濡れ続けている地に足をつけた。
「ウィル、患者さんは城内にいるの?」
今度は、もったいぶることなくひとつ確かに頷いたウィルが薄い口を開く。
「王が、危篤状態なんだ」
聞こえた瞬間──メアリの思考が停止した。
目を見開き、ウィルを見つめたまま、ただ瞬きだけを繰り返す。
今の今まで鼓膜を刺激していた雨音が遠くに感じられるほどの衝撃的な言葉。
声を返せないメアリに、ウィルは続けた。
「ヴラフォスには、休戦する意思なんて最初からなかったんだよ」
表情に悔しさを滲ませ吐き捨てるように話したウィルの姿に、メアリの頭が少しずつ働き始める。
何があったのかなど尋ねなくとも、王が危篤の状態であることでメアリは悟った。
「罠だったのね」
「……そうだ」
答えたウィル。
ふとその左手に色を見た気がして注視すると、手の甲に一筋の傷があり赤く染まっている。