一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない


「王の部屋へ行け」

「ウィルは!?」

「俺はルーカス隊長と一緒に、王を逃す為にしんがりを務めてる団長やユリウスたちを助けに戻る」


騎士団長とユリウスがまだ戻っていないことを知り、メアリの瞳が心の動揺を表すように揺れた。

無事なのか。

それを今問いかけても詮無きこと。

助けに戻るということは、戻ってみなければわからないのだから。

出立の時に微笑んでいたユリウスの顔が脳裏にちらついて胸が苦しくなる。

けれど、メアリはほんの僅かだけ頭を振ってから、ウィルに「わかった」と頷いてみせた。

その様子にすぐさま踵を返したウィルだったが、メアリに名を呼ばれ振り返る。


「これを使って!」


声と共にメアリが投げて寄こしたものをウィルは右手で受け取って見ると、円形の小さな箱があった。


「傷薬よ。気休めかもしけないけど使って」


それはメアリがいつも肩からかけているショルダーバッグの中に常備されている薬だ。

傷の出血や腫れを抑える効果があるハイペリカムという薬草の茎葉をすり潰したものが入っている。


「助かる」

「絶対に、帰ってきてね」

「当たり前だ」


きっぱりした声で返すと、ウィルは今度こそ馬の背に飛び乗り来た道を戻った。

メアリはそれを見送ることなく、目的地へと走り出す。


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