一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
雨空のおかげで薄暗くも天井や壁に繊細な彫刻が施された壮麗な外回廊を抜け、城の正面玄関で警備する兵に名を告げるとすぐに扉を開いて通された。
常なら落ち着いた雰囲気の漂う城内だが、今日は兵士や使用人、臣下の者たちの表情は沈んでいる。
アクアルーナ王が帰還し、ひどく容態が悪いことはそれだけで理解できたメアリは、行儀が悪いとわかっていながらスカートの裾をたくし上げて階段を駆け上がり、王の居室がある王の塔へのひんやりとした渡り廊下を走り抜けた。
塔の入り口を守る兵がやってくるメアリの姿を認めるなり、すぐに後ろに下がる。
この王の塔は警備の厳しい塔なので、普段なら例え当番の兵士がメアリと知己であっても特別な許可がなければ通ることはできない。
メアリが小さな頃、迷子になって王の居室に入れたのは、体調不良の兵が交代するタイミングでたまたま見過ごされたからだった。
今回はきっと、ジョシュアかイアン侯爵あたりが通すように伝えておいてくれていたのだろうと思考しながら、メアリは「ありがとうございます」とひと言告げてらせん状の階段を上りひとつ上の階へと移動する。
そして、白く大きな両開きの扉が視界に入ると同時、メアリは扉の横にイアン侯爵が立っていることに気付いた。