一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
「どこも怪我はないかい?」
「はい! ユリウス様のおかげで」
メアリは元気に頷き答えてみせるも、本当はまだ足がすくんで動けない。
何せ、さきほどのタイミングで”視えて”いなかったら、自分は死んでいたのかもしれないのだから。
震えを止めようと、袋を抱える腕に力を込める。
それに気づいたユリウスが、メアリの元へと足を進める横で、肩に矢を受けた髭面の男の顔が見る見ると青ざめた。
男が怯える理由は単に傷を負わされたからではない。
非番の為に鎧こそ外されてはいるが、ユリウスの身を飾る青と白を基調にしたアクアルーナ王国の騎士服に気付いたからだ。
そして、左肩にあしらわれた月をモチーフにした特別な紋章にも。
「なっ、なんで王様直属の近衛騎士がこんなところにっ」
城下町ならまだしも、ここはスラム街だ。
警備を担当する騎士団の者が巡回することはあっても、王家直属の騎士を見かけたことなど男の記憶にはなかった。
近衛騎士は選ばれし騎士だけが集う精鋭部隊。
下手に挑めば勝ち目どころか命すら危ういことが嫌でもわかり、男は急ぎ立ち上がると背を向けて逃げ出そうとした。
──けれど。
「どこへ?」
メアリに話しかけた温厚なものとは違う、月夜によく馴染む冷えた声。
ユリウスは男の背後に回るとロングソードの切っ先を太い首元に当てた。