一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
「イアン侯爵様」
「早く入ってくれ。王が待っている」
挨拶しようと頭を下げかけたメアリを制し、イアンは金色の刺繍が施された黒いローブを翻すと扉を開いて中に入るように促す。
「はいっ、失礼します」
一礼し、幼い頃振りの王の居室に足を踏み入れたメアリは、部屋の奥、ロイヤルブルーの天蓋付きベッドに横たわる王を見つけた。
すぐそば立つジョシュアがメアリの姿を見るなり悲し気に眉を寄せる。
それは、散々手を尽くしても力及ばず、後は”その時”を待つだけとなった際に見せるジョシュアの表情だ。
見覚えのある顔に、メアリの鼓動が不安で速まっていく。
ツンと鼻の奥が切なく痛むのを感じたメアリは、唇を噛みしめるとジョシュアの隣に立ち並んだ。
ジョシュアは何も言わず、一歩下がってイアンとふたりで静かに見守る。
「王様……」
メアリが祈るように胸の前で手を合わせ、そっと声をかけると閉じていた王の瞼が震えてゆっくりと開く。
ぼんやりと焦点の定まらない焦げ茶色の瞳が心配そうに見下ろすメアリを映すと、王は目尻を優しく下げ「ああ……」と蚊の鳴くような声を零した。
「メアリ……ただいま」