一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない


「さすが優秀な宰相様。うまく脅したねぇ」

「アドバイスだと言っただろう」


意味ありげに口角をあげて念を押すイアンは、ふたりのやり取りを静かに見ていたメアリの向かいに座った。


「さて、ジョシュアから君の生い立ちについて何か聞いたか?」

「いえ……まだです」


メアリが首を横に振って応えると、イアンは丸いモノクルの位置を指を添えて調整し、溜め息を吐いてジョシュアを見る。


「お前は何をしていたんだ」

「だってかわいそうじゃないか。落ち込んでるし、混乱してる」


ジョシュアはティーポットに茶葉を投入していた手を止めて、いつもの明るさを失っているメアリに心配そうな眼差しを向けた。


「だが、時間がない。メイナードは明かした。ならば彼女は選ばなければならない」


悲しみに耽り続けているわけにはいかないんだと少し弱々しい声色で続け、イアンが鉄色の瞳を伏せる。

そして、気持ちを切り替えるように息を吸い込むと、再び視界にメアリを映した。


「……メアリ、全て理解しようとしなくもかまわない。だから、まずは聞いてくれるか?」

「はい……」

「ありがとう」


そうして語り始めたのは、今より二十年前のこと──。


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