一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
預けはじめの頃は王も数年はそれでもかまわないと、時々視察で足を延ばして会いに行ければいいと話していたのだが、王妃が隠していたもうひとつの不幸が起きてしまい、王の気持ちを支える為にもメアリは予定通り首都に戻されたのだ。
「その隠されていた不幸が、君の母上であるマリア王妃の死だ」
王妃は、メアリを産めば予後が悪く自分が死ぬことまで母から聞かされていた。
それを告げなかったのは、王を愛していたからであり、生まれてくるメアリの未来が幸せなものになると信じたからだ。
王妃はそのことを死の間際に告げて、王とメアリの名を愛しそうに声にしてからこの世を去ったのだとイアンは語った。
メアリは絵画でしか見たことのない母マリアの姿を思い出す。
微笑みを浮かべた肌の白い美しい女性だった。
自分の幸せを信じ、願ってくれた両親の愛情と想いに、胸の内だけでなく目頭まで熱くなる。
ぼんやりと涙で滲む視界の中で、イアンの視線がメアリの首元に移動した。
「君のそのペンダントは、王妃から君へのプレゼントだと聞いている。そして、そのペンダントには仕掛けがあり開くようになっている」
「仕掛け、ですか?」
そんなものがあったとは初耳で、メアリは目を丸くしペンダントにそっと触れる。
「ああ。中にはある物が入っているはずだ」
「それは、どんなものですか?」
想像がつかずにメアリが首を傾げると、ジョシュアがイアンの前に湯気の立つ紅茶を置いて答える。
「君がもしメイナードの血を継ぐことを選ぶのであれば必要なものだよ」