一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない

「ひ、ひいぃっ」


情けない悲鳴を漏らし、男は動きを止める。


「仲間を置いて逃げるつもりか?」


卑怯だなと、耳元で嘲笑するようにユリウスが囁く。


「ここのところ城下町で派手に窃盗を働いていたのはお前たちだろう? 治安維持の者らが手を焼いていたようだが、頼まれて迷子を捜しに来て正解だったかな」

「み、見逃してくれっ……」

「残念だけどそれはできないな。彼女を怖がらせた報いは、しっかり受けてもらおうか」


そう告げるや否や、ユリウスは男のうなじに手刀を入れて気絶させた。

ぐったりと崩れ落ちる男が地面に突っ伏すと、ユリウスは屋根の上に向かって「セオ」と声をかける。

ややあってひょっこりと健康そうなそばかす顔を覗かせたのは、ユリウスが指揮する第三部隊に所属するセオと呼ばれる青年だ。

騎士宿舎の救護室で治療を行うジョシュアを手伝う際、メアリも何度か接したことがある。

遠距離攻撃型のセオはあまり怪我をしないのでジョシュアの世話になることは少ないが、明るい性格で弓を得意とする人物という印象が強い。


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