一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
「メアリ、君は心根が優しく真っ直ぐで美しいな」
「そ、そんな! 私から見たら、ユリウス様の方こそ」
褒められてほんのりと頬を赤く染めはにかむメアリの横で、葉にたまる雨の雫がぽたりと落ちたのと同時、ユリウスの瞳が翳る。
「それは……本当の俺を知らないからだよ」
「……え?」
いつもと違う冷めた声色。
それは野盗から助けられた時に耳にしたものに似ていて、メアリの背にひやりとしたものが一瞬走る。
怒らせてしまったのではと焦ったメアリだったが、目の前に立つユリウスの表情はすぐに柔らかさを取り戻した。
「なんて冗談さ。ごめん、まだ疲れてて少し気が立ってるみたいだ」
「い、いえ」
「引き止めてごめん。またね」
「はい……」
軽く手を挙げ踵を返し、レザーブーツの踵を鳴らし柱廊を進むユリウスをメアリは静かに見送る。
心中で、本当に冗談なのだろうかとユリウスの様子を気にしながらも今度こそ食堂に向か為に靴音を響かせるメアリ。
その足音にユリウスがゆっくりと振り返った。
スカートの裾を揺らし去っていく背中を見つめる瞳には、もの悲しさが漂う。
「本当に、君の純粋さは、俺を苦しめてくれる」
自嘲し、瞼を伏せ、ユリウスは再び足を踏み出したのだった。