一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない


「食事は?」

「パンを齧ってきた」

「倒れるなよ」


オースティンは近衛騎士団の団長であると同時に王立騎士団の総長も兼任している。

それ故に非常時は食事もままならぬほどに忙しくなり、まして王が亡くなった今は騎士団の全指揮権がオースティンに委ねられている為、会議に軍の編制や戦闘準備にと走り回っている状態だった。

そんな多忙を極めている状況にも関わらず、オースティンがジョシュアの診療所を訪ねた理由はメアリにある。

王がメアリに真実を打ち明けたのなら、どうしてもしなければならないことがあるからだ。


「今、メアリと話せるか?」

「いじめてくれるなよ?」

「イアンじゃあるまいし」

「オーケー、イアンに伝えておくよ」


「バカ、やめろ」と眉を下げて笑うオースティンだったが、ジョシュアが二階へ上がるとその表情を引き締める。

やがて、控えめな足音と共に現れたメアリは、玄関に立つオースティンに会釈をした。


「こんにちは、騎士団長様」

「ああ、メアリ……と馴れ馴れしく呼ぶのはよくないか」

「い、いえ。まだ……決めかねてますので、今まで通りでお願いします」

「そうか。ならば、メアリ」


メアリの名を口にした直後、オースティンは全身をしっかりと支えるように直立し頭を下げた。


「騎士団長!?」

「王を守れずに、申し訳なかった」


謝罪され、メアリは戸惑いながら「頭を上げてください」と願う。

けれどオースティンは「いや、しかし」と断り自らの納得がいくまではと渋った。


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