一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
これにはさすがにオースティンも黙っていられなかったらしい。
オースティンはランベルト大侯爵を見据える。
「恐れながらランベルト大侯爵、今、その権限はあなたにはないはずだ」
低く太い声ではっきりと告げたオースティンに、ランベルト大侯爵は余裕の態度を崩さない。
「いやいや、私はメイナードの叔父だ。可愛い我が甥の命は貴殿らに奪われたようなもの。言ってしまえば重罪人。まして内通者の疑いがある以上、貴殿らの指図を受けるいわれもなかろう」
重罪人という苛烈な響きにメアリの心臓が体の内側で暴れる。
このままではイアンとオースティンの立場が悪くなってしまうのではないか。
王はそんなことを望んではないないはず。
ここに王がいたなら、なんと言ってこの場を諌めるだろうかと切り抜ける術を模索していると、メアリが覗く扉側の近い席に腰を下ろしているルーカスが鼻で笑った。
「ハッ、罠を恐れて調印式に同席もしなかったくせに」
「ルーカス殿」
隣に座るユリウスがそっと諌めるも、ルーカスに反省の色はなく足を組んでプラプラと揺らしている。
そんなルーカスをランベルト大侯爵はジロリと睨んだ。