一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
机に向かい仕事をしていたジョシュアの耳にその一報が届いたのは、メアリが医務室を出てから暫く経ってのことだ。
(やはり地下倉庫への遠征はまだ難易度が高かったのか! どうする。衛兵に頼んで探してもらうか。いや、今なら患者もいないし僕が搜索することも可能か⁉︎)
なかなか戻らないメアリを心配し、落ち着きなく医務室の中を歩きまわっていたジョシュアの耳に待望のノック音が響いた。
「お帰りメアリイイイ!!」
喜び勇んで扉を開けたジョシュアだったが、そこに立っていた人物がメアリとは全く違う、むしろ似ても似つかぬ男だった為に苛立ちを露わにする。
「僕が待ってるのはオースティンじゃない。メアリだ!」
「いきなりご挨拶だな。そのメアリ王女の件で話がある」
オースティンはメアリから預かった薬品の入った箱をジョシュアに手渡し腕を組んだ。
「メアリ"王女"? 彼女はまだ決めてないだろう?」
「さっき決められた。イアンと俺を、何より、ランベルト大侯爵の身勝手な振る舞いを止める為に」
「……そうか」
決めたのか、と少し寂しげに零したジョシュアは肩を落とし踵を返す。
そして机に箱を置いて椅子に腰かけるとまた「そうか」と呟くジョシュアの肩をオースティンが労い叩いた。
「王女は今イアンと共にメイナードが用意していた王女の塔にいる。例の脅威がランベルト大侯爵だったのかは不明だが、今後は近衛騎士数名を常に護衛につける」
「うん。それがいい」
「……大丈夫か?」
「可愛い娘が嫁いでしまった気分さ」
ジョシュアの言葉にオースティンは先程のメアリの辿々しい挨拶を思い出す。
「いい娘に育ったな」
「だろう?」
誇らしげに、しかし力なく微笑んだジョシュア。
オースティンは再びジョシュアの肩を軽く叩いて、落ち着いたら久しぶりに飲みに行くかと告げると、ジョシュアは「また潰れるなよ」と、笑って答えたのだった。