一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
第二章
1.焦がれる涙と閉じ込めた罪
──王女の塔は、メイナードが居住していた王の塔の反対側にある。
メアリの部屋は、いつかメアリが王女として生きることを選んだ時にと、メイナードが侍女に整えさせていた。
何も知らない侍女や使用人たちの間では、行方不明の王女の帰りを信じて待つ王の姿に涙さえうかべる者もいたらしい。
とにもかくにもメイナードの愛に満ちた気遣いのおかげで、メアリは今、桃色の壁紙と豪華な調度品で飾りつけられた部屋の中で、怒涛の展開に白目を剥きそうな状態だ。
「ちょ、ちょっと待ってください、イアン侯爵様」
「なにか?」
イアンはモノクル越しに、戸惑いを隠せないメアリを見た。
「いくつか、質問をいいですか?」
「どうぞ」
「まず、私がここに住むのは今日からですか?」
「ええ、そう説明しました」
そう、確かにメアリも聞いた。
王女としての道を歩むと決めたのもメアリであり、今後は今までのような生活とは離れるであろうことも自分の生い立ちを知ってから数度考えた。
その際は一度くらい家に戻り準備くらいはできるだろうと思っていたのだが、医務室に戻ることもできずここへ強制連行とは想像もしていなかったのだ。