一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
どうせなら中に入ってもらってお話でもしようかと考えたところで、サイドテーブルに飾られているルクリアの花が視界に入った。
(……そうだ。父様のところへご挨拶に行こう)
イアンから許可は下りているしと、メアリはさっそく扉を押し開けると、ユリウスが振り向く。
「どうかしましたか?」
「礼拝堂へ行きたいんです」
「わかりました。お供します」
承諾すると、ユリウスはメアリを礼拝堂に案内する為廊下を進み、塔から出ると広い庭へと入った。
礼拝堂は城の裏手に建っており、王女の塔からは裏庭のバラ園を通るのが近道となっている。
美しく整えられた庭にはランプがふたりを礼拝堂へと導くように灯され、見上げた夜空には上弦の月と星々が優しい輝き照らす。
寒さが深くなりつつある冷えた夜景の中、ユリウスが戸惑いがちにメアリを振り返った。
「あなたが……行方不明の王女様だったとは、驚きました」
「そう、ですよね。実は私もまだちょっと信じられないんです。でも、私が王女でいいのかなって、不安もあるんですけど」
メアリが本音を漏らしおどけるように笑ってみせると、ユリウスはゆる、と頭を振り否定する。
「あなたのような方がこの国を背負う王女様で、民は幸せだと思います」
「そ、そうでしょうか」
「ええ。ヴラフォスはここ十数年、民の心を無視したやり方を続けています。不信感も募らせていますから」
ユリウスは、上に立つもので国は変わるのだと語り、薄く微笑むと再び首を前に戻した。