一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
「これ以上迷子にならないように手でも繋ごうか?」
「こ、子供じゃないので大丈夫です!」
からかわれ、メアリが少しだけ唇を尖らせるとユリウスは頬を緩めた。
「メアリは今年で十八だっけ?」
「はい。先週、誕生日を迎えました」
「そうだったのか。お祝いしそびれたな」
「そんな。お気持ちだけで嬉しいですよ」
首を小さく横に振った時、ふいに覚えのある甘い香りがメアリの鼻をくすぐった。
何気なく道の脇に視線を移すと、愛らしい桃色の花びらを咲かせたルクリアの花が夜風にそっと揺れている。
毎年、誕生日を迎えると、どこかで生きているらしい父親から送られてくる花だ。
メアリは父の姿を知らない。
どこで生活をし、どのような仕事をしているのか。
どんな顔で笑い、どんな声で話すのか。
背は高いのか、手は大きいのか。
父に関して知っていることは本当に少なかった。
わかっているのはジョシュアの友人であることと、メアリの持つ力によってメアリが傷つかないようにする為にジョシュアに預けていること。
それから、普通の親子のように過ごすことが叶わなくとも、娘であるメアリのことを愛しく大切に想っていること。