一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
そもそも、今自分に必要なモノは物ではなく、経験値だ。
王女にふさわしくなる為にエレガントな所作を学ぶマナーレッスンでは、朝からひたすら歩き続けている。
顔を上げて背筋を伸ばし、踵からおろして、つま先はあと。
それを意識し、豪華なシャンデリアが吊るされたサロンを見飽きるほど往復しているうちに気付けば昼食の時間になっている。
その後は乗馬と護身術の強化レッスン。
戴冠式でのスピーチの暗記も合間に入れ、頭はパンク寸前だ。
昨夜は夢の中でもレッスンを受けていて、目覚めの瞬間から疲れていた。
そんな感じで数日を過ごしているせいか、メアリはふと、それが欲しいかもと声を漏らす。
「……普通の、時間」
しかし、吐き出した声色が思いの外疲労感たっぷりだった為、メアリは我に返って両手のひらを胸の前で左右に振った。
「ああああ! ごめんなさい! 今のは聞かなかったことにっ」
自分で決めた道であるにも関わらず弱音を吐いてしまうなんてと恥じたメアリだったが、ユリウスは気遣うように微笑んだ。
「まあ、イアン侯爵殿は厳しい方だからその気持ちはよくわかるよ」
メアリの心に寄り添う言葉を口にしたユリウスは「そうか」とひとりごちると、明るい表情を浮かべて言った。
「では、息抜きに約束を果たしに行こうか」
「え?」
「俺は君からお礼をもらって、俺は君の誕生日を祝うんだ」
それは以前ふたりが交わした小さな約束。
忙しさに流れてしまってもおかしくないそれを、ユリウスが覚えていてくれたことをメアリは嬉しく感じたのだが。
「え、え、でも、いいんですか?」
気軽に城を出ることが叶わないメアリは、戸惑いながら首を傾げる。