甘く抱いて、そしてキスして…【完】
私は体中から湧き出る全エネルギーを使って、力強い大きな声でもう一度叫んだ。

「翔太郎!」

翔太郎の大きな耳にやっと私の声が響いた。
そして、今置かれている自然に、不思議なくらい調和した笑顔で私の方へ振り返った。

「ん?」
私を愛おしそうに楽しそうに見つめてくれた。


私は、今日ここに、連れてこられた。
そう、翔太郎の原点、決して忘れられない場所。
私は翔太郎の仕事に対する野心とそれを必ず実行するだろう姿を見た。
私は…私は……やっぱり翔太郎のこと、もっともっと知りたい。
助けたい。守ってあげたい。
一緒に目標に向かって頑張りたい。



翔太郎、私は、今、翔太郎のお母さんからの手紙のこと、明確に思い出したよ。
お願い、関係ないなんて言わないで。
私はやっぱり、翔太郎と関わっていたいの。

翔太郎、仕事とプライベートの線引きは確かに大事だけど、私達はどちらも共有してるんだよ。ずっと一緒って言ってくれたじゃない?
私に、もっとたくさんたくさん教えて……
私にはない、翔太郎の両親との素敵な思い出…そして辛い思い出も。

お父さんはどんな人だった?
お母さんは?
翔太郎はどちらに似てるのかな?


私は翔太郎に正直にあの手紙を見たことを伝え、今の気持ちをぶつけてみようと決意した。
この荘厳な趣のある景色が私をそう覚悟させたのだ。


「翔太郎、あ、あのね、私ね……」
天まで届くような声で私は再び叫んだ。

そして、少しずつ、私も翔太郎の方へ歩き出した。

「どうした?おい、足元危険だから、そこにいろ」
翔太郎は心配そうに私に気を使ってくれた。


確かに、中々歩けない。この雑草の中はきつい。

「わかった、翔太郎、そこで聞いていて。」
私は今度は宇宙に広がるような高い声を出した。

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