甘く抱いて、そしてキスして…【完】
「ん?話?」
私はなんだか心臓がドキドキした。

「あ、あの、彼氏いますか?」
顔を赤らめてダイレクトに聞く立石先生。

「あーあ、どして?」
私は、誤魔化すかのように颯爽と答えた。

「あ、あの、俺は美園先生がずっと好きなんです」

やっぱり勘違いじゃなかった…
どう切り抜けるか?
今、社員になるとか、そんな話してたのに、タイミング悪くない?
困ったよ…
翔太郎、どうしたらよい?
私たちの関係、話したらまずい?
もし、社員になるなら、絶対まずいよね?


「俺と付き合って下さい。社員になったら、もっと一緒にいれますよね?俺は頑張りたいです」

ん?なんかおかしくない?
一緒にいたいから、社員になりたいの?
そんな動機なら、採用できないよ。


「ごめんなさい。私は彼氏いるから。」
少し冷たくあしらう意地悪な私。

「えっそうなんですか?」
魂が全身からすっかり抜けた立石先生は、私のいつもの場所に近づいてきた。

なんかショックだった…やっぱり?


「俺は、待ちます。俺を見てくれるまで」
そう言って、立石先生は、夕方の時のように私の手を握ろうとした。


「わぁー」
私はひどく動揺し、手を払いのけたら、ブルブル震え出した。

何するの?
どうしちゃったの?

「あ、すみません。いきなり…」


「帰って…私は仕事しなきゃ」

「お願い、帰って!」
帰ろうとしない立石先生に、ついに大声を出してしまった。


バタバタバタ

バタバタドーン

2階から翔太郎が慌てて勢いよく降りてきた。

「どうした?美園?」
今まで見たことのない息をひどく荒らした翔太郎の表情。


「美園?」
立石先生が不思議そうに呟いた。


「美園、大丈夫か?」
翔太郎は、私の元へ駆け寄り、その場に座り込み、私の両肩に優しく手を乗せ、頭を撫でた。


「なんだよ…帰ります」


理解したのかどうか分からないが、立石先生は、やっと帰ってくれた。


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