甘く抱いて、そしてキスして…【完】
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あれから1か月が経過した。



立石先生は出勤はしているものの、社員になる件についての返事はなかった。私への接し方もなんだか変わってしまった。やけによそよそしい。
だから、私は社員にらならないんだと思い込んでいた。
翔太郎と立石先生が顔を合わすこともなかったため、私はこちらから問いただすのはやめていた。

トントン

「はい、どうぞ。開いてます」

昼1時過ぎた頃だった。

なんと入って来たのは立石先生。

「どうしたの?こんな時間に?」
私は目を丸くして聞いた。

「あ、あの、いきなりすみません。聞いていいですか?」
立石先生はものすごく真剣な表情とピシッとした態度。

「何?社員のこと?」
その時の私は、それしか思い浮かばなかった。

「いえ、あの、美園先生は、塾長と付き合ってるんですか?」

思わず息を呑んだ。

もう言ってもよいよね?
もう言うべきだよね?

「…うん、そうだよ」

私はキッパリと答えた。

「わかりました。返事遅くなりましたが、まだ大丈夫ですか?」

「え?」
私は頬がピクついた。

「俺を社員にして下さい。塾長候補にして下さい。」
立石先生の強い決心は、揺らぎそうにはなかった。

「わかったわ。ちょっと期限は過ぎてしまったから、自分の口で、塾長にその気持ち伝えてみて。今、電話してみるから」

「わかりました」

私は、塾の電話から、翔太郎にかけて、立石先生に変わった。

「お疲れ様です。立石先生に変わります」
私は受話器を立石先生にサッと渡した。

「お疲れ様です。塾長、返事遅くなりましたが、俺は社員になって頑張りたいと思います」
緊張してるのか、声が震えている。

「返事遅すぎだろ?まあいい。わかった。頑張れよ」
やや、イライラ気味の翔太郎。


「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします!」
深々と頭を下げている立石先生。

翔太郎からの許可がおりたのだと、私は理解出来た。

電話は素早く終わった。


「良かったね、これからよろしくお願いします」
私は厳しさと優しさを交互に見せながら、そう答えた。


「立石先生、塾長と私のことは絶対に誰にも言わないでね、約束だよ」
私は、自分の胸の前で、お願いっと言うように両手を合わせた。


「はい、言いません。約束します」
立石先生は、ハッキリと逞しく言い放ってくれた。


それにしても、立石先生は、私と翔太郎の関係をなんで確認したんだろう?
答えにより、社員になるかならないか変わったのだろうか?

私はちょっとだけ気になってしまった。


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