甘く抱いて、そしてキスして…【完】
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季節はすっかり秋に様変わりしていた。
私が翔太郎に出会って、1年が経過した。


その後、穂乃香さんは起訴され、公判になっていた。



穂乃香さんは、まるで別人になってしまったかのように、痩せこけ、青白い顔をし、すっかりやつれていた。


判決の日、私は、あの日以来、初めて穂乃香さんに会ったのだ。
傍聴席に翔太郎と私は座っていた。


判決は…

『5年以下の懲役、若しくは禁固又は100万円以下の罰金』
だった。



ドンーバタン


穂乃香さんは、判決を聞くと、その場に眠り込むように勢いよく倒れてしまった。

「穂乃香!」
翔太郎が、傍聴席から飛び出していく。
周りの手を払いのけ、叫ぶ。

「穂乃香!しっかりしろ」

私はその場で硬直し、微塵も動けなかった。


「救急車呼んで下さい」
翔太郎がまた大きな声で叫ぶ。




ピーポーピーポーピーポー

やがて到着した救急車に速やかに穂乃香さんは運ばれた。

翔太郎は、私のことはすっかり忘れているようで、救急車に同乗して病院まで、ついて行ったようだった。


私は、もう誰もいない傍聴席に静かに深く座り込んだままで、過去を回想し、目を赤くしていた。
やがて、頬を流れ落ちていく一粒の涙で、私は、現在に引き戻された。

「あ、あああーああー」
私は法廷中に響き渡る大音量の声を出した。


泣き叫ぶ悲鳴と同時に、さっきまで隣にいた翔太郎がいない焦燥感が私をさらに苦しめる。


翔太郎?
わかってるよ、わかってるよ。
でも、私も居たんだよ、あなたの隣に。


理解したい。
見守りたい。

でも、やっぱ寂しいんだ。
不安と孤独でいっぱいなんだ。
一緒にもっといたいんだよ。





穂乃香さんの方が大事なの?


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