とろけるようなデザートは、今宵も貴方の甘い言葉。
六、過去×余韻
喬一視点
実家は、室町時代から続く呉服店である。
ただそれだけの事実に、幼少時代振り回されてきた。自分は、会ったこともない祖父の生き写しのような容姿で、そのせいで親戚たちは自分に期待をむけてくる。
祖父は双子で生まれたようで、妹がいたらしい。祖父もその方も俺が生まれた時にはもうなくなっていたけど、祖父は呉服店の拡大や事業拡大を成し遂げた偉大な人物らしい。
そのせいで俺への期待は大きかったのだろう。
双子とはいえ、男である祖父が長子として存在していたことも、姉の長子としての跡取り問題に難色を示していることなのかもしれない。
両親はそんな親戚の言葉は全て握りつぶしているし、聞いても静かに説教するのだが、全く止まない。
両親と親戚の言い争いも気持ちが良いものではなかったな。
着物の帯が体を縛るのが窮屈で、息苦しいと感じていた。
その窮屈な着物を着るとき、堅苦しい行事であることが多かった。
車の開閉の音と共に、同じように息苦しそうな着物を着た大人たちが集まってくる。
正月と盆、そして呉服屋本店の創立記念日、年三回のこの行事は退屈だった。
そして姉に聴こえるように浴びせられる、大人たちの自分たちの利益を見通した暴言に強い嫌悪を感じざる得なかった。
親戚を『分家』と呼ぶようになったのは、姉の結婚式のあとからだ。