とろけるようなデザートは、今宵も貴方の甘い言葉。
『なあ、喬一くん、家庭教師に来てくれないか』
親同士の付き合いで、偶に会っていた一矢に言われ、ちょくちょく家に行くようになった。
彼の成績で家庭教師がいるのか謎だったが、今思えば、家の事情を知って彼なりに気を使ってくれたらしい。
伝統やら歴史やら、分家とは無縁の一矢の家は楽しく、いつも灯がついた家の中で毛布に包まりぬくぬくと寝転んでいるような解放感があった。
『ちょっと。お父さん、信じらんないから』
一矢と卒論のテーマを考えて、意見を出し合いつつのんびりケーキを食べていた時だ。
はっきり言って、甘いデザートが好きではなかったが、レッスン後に出されるケーキを時間をかけて食べるのは苦ではない。長くここに居られると安心感があった。
『お兄ちゃん、お父さんが私の携帯のメールを見ようと奪ったの』
『父さんは、やりすぎなんだよ。今度はどいつだ』
『お兄ちゃん……っとえ、あ、いらっしゃいませ』
完全に俺がいるのを知らなかっただろう紗矢が、珈琲を飲んでいる俺を見て、マッチに火が付いたように真っ赤になった。
あまり話はしたことがないが、良家のお嬢様だけあって、淑やかで上品で、そして綺麗な子だった。
『あーもう。まただ』