とろけるようなデザートは、今宵も貴方の甘い言葉。

『私も、もっと料理しなきゃ。おばあちゃんのご飯には到底及ばないので』

 お弁当を差し出してくれたので、遠慮なく受け取ると彼女ははにかむ。

 ああ、可愛いなと思うと同時に、彼女がいつも笑顔で食事をしているのを思い出した。
 実家は相変わらず、嫌な分家が顔を出す。事業を拡大したいから資金援助しろと、どの面で言いに来るのか厚かましい連中だ。

 謝罪に来たと思えば、うちが持っているある権利が欲しいだの承諾してほしいだの、言い訳ばかり。

 少しで良い。細やかでいい。
 例えば、紗矢がくれたこの小さなお弁当のように。
 お弁当箱を開いたら、入っている細やかな幸せで俺は満たされる。

 料理を作るようになったきっかけも、あのお弁当箱のおかげだ。

 同じタイミングで一人暮らしの一矢の家に、段ボールいっぱいに送られてきた土のついた野菜を、半分押し付けられた時からだ。

『ばあちゃん、俺にも野菜を送ってくるようになったんだよ。喬一くん、持って帰って』

 細かい作業は苦ではなく、むしろ料理は仕事や家でのごたごたで鬱憤がたまったときのいいストレス解消にもなり、あのお弁当箱に細やかな幸せを詰め込む作業は楽しい。

 ただやはり甘いものは苦手で、一矢や紗矢と食べるケーキ以外で甘いものを美味しいと思うことはほぼなかった。

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