とろけるようなデザートは、今宵も貴方の甘い言葉。



 俺も就職して、一矢も父親の会社に入社して、数年忙しく疎遠になっていたが、自分は彼女を迎えに行く土台造りをしている期間だと思っていた。
 自分が一人前ではないのに、口説くのは、潔癖すぎるかもしれないが自分で自分が許せず、もう少し仕事が落ち着いてからなんて悠長にしていた。

 でも一矢の家に行き、偶に彼女の話題になって、気になる愚痴を聞かされた。

『妹が、男の影が全然ないから心配なんだよね。最近は携帯のゲームにはまって、俺の家でゴロゴロ入り浸ってるんですよ』
 そんな風に愚痴をこぼす一矢の言葉に、安心してしまう自分がいた。

 過保護な父や兄のせいで、自分から恋愛をしようとしない消極的な部分は付け込める。

 そんな打算的な男だが、彼女に好きになってもらおう。
 俺が彼女の家で食べる甘いデザートが好きだったように。

 いつまでも食べていたいと思うような甘いデザートのように。
 彼女を虜にしてしまおうと。

 『30歳までに結婚できなかったらもらってください』

 俺の思惑も知らないで、そんな言葉を吐いていいのかな。
 君が言ったのだから、俺は絶対にもう、逃がしはしない。
 顔が綻んで、ついついみっともなく笑ってしまった。

『30歳なんて面倒くさい。今すぐでいいだろう』
 今すぐでいい。焦ってその場でそんな言葉を吐いて、甘い言葉は言えなかったけど。

 ちゃんと毎日、好きだと囁くよ。囁けば囁くほど、君は吸収してくれるのだから。
 チャンスだ、逃がすものかと、蛇に睨まれた蛙のごとく、さっさとお腹に収めてしまおうと決意した。


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