とろけるようなデザートは、今宵も貴方の甘い言葉。


「君のお兄さんが離れた大学に行くから一人暮らしをすることになって、俺も家庭教師を辞める日。君の家で最後に皆でご飯を食べた時だ」
「嘘……」

 確か、父に『一矢は一人暮らしを許すが、お前は家から通える範囲の学校にしなさい』と言われて、大学に悩んでいた時だ。
 それ自体に不満はなかったが、親に言われたとおりにするのも、自主性がないよね、と自分で色々調べて決めようとしていた。親に相談できないけど、先生に相談すれば親に報告されるし、と悩んでいたら喬一さんが気づいてくれた。
 喬一さんが近辺の大学のパンフレットやオープンキャンパスを調べてくれて、そして『本当に行きたいなら、一人暮らしも希望していいんだよ』と相談に乗ってくれて心強かった。

喬一さんが、私にまで優しくしてくれて感動して憧れていたのははっきり覚えている。
けど、水玉の紫のお弁当箱。

 確かお父さんと喬一さん、お母さんもワインを飲んで、兄が先に寝落ちしてソファに突っ伏して――。
「もしかして、おばあちゃんの筑前煮とか漬物を入れた?」
「あたり」
 彼は、長い指で慈しむようにお弁当箱を撫でた。
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