とろけるようなデザートは、今宵も貴方の甘い言葉。


「あの時、実家がごたついていてね。姉が長子なのに俺を跡継ぎにしたいと騒ぐ親戚が煩わしくて。姉が、自分で認めてもらうから俺に心配しなくていいと頑張っている背中を見て何もできないのが歯がゆくて」

「そんな……全然わからなかった。喬一さん、いつも優しかったから気づきませんでした」
「はは。家のごたごたを、高校生だった君に心配させる男なんて情けないだろ」

 大変だったのに私の進学の相談にも親身に乗ってくれていたんだ。
 自分のことばかりで、全然喬一さんの苦労に気づかなかった当時の自分を殴りたい。

「それで君の家でご飯を食べるとこが多くなって、で、君の家の野菜が美味しいって俺が言ったのを覚えていた君が、帰りにこの中に野菜のおかずを沢山つめてくれたんだ」

 母も寝て、父が分かるはずもなく、タッパがどこにあるか見つけきれなくて、買ったばかりのお弁当箱を洗って拭いて、急いで詰めた気がする。
 買ったばかりの新しいお弁当箱なんで、返さなくて大丈夫です、と言った。

 それは相談に乗ってもらったお礼のつもりだったし、お弁当箱も単に友達と行って偶々安くて買っただけ。逆に安く買った品物を大切に使ってもらっていたなんて申し訳ない。

 思い出に残ることもないただ、単に見返りも何も求めずにした行為だ。
 それを喬一さんが覚えていたなんて驚いてしまった。
「そうか。覚えていなかったか。そうか」

 はあ、と悲し気にため息をついて首を振る喬一さんに、急いで駆け寄った。
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