架空の同一人物
“猛暑”

ここ群馬では酷い猛暑日が続いている
誰もが家を出たがらないだろう。だが、彼女は違う
「心、早く来なよ」
手を振って私を外へ誘い出すのは双子の姉である彩音
「わかったから、待って。」
楽しそうにこの暑い中ジリジリと焼けた道路を歩く
今日は彩音と約束していた川に遊びに行く日。
7月に約束をしたのにそれを覚えているとは思わなかった
家から川までさほど遠くはないから歩いて行ける
だが、暑い。
「ほら、川見えてきた」
嬉しそうに言う彩音はとても微笑ましい
先行ってて。そう叫ぶと彩音は走って川の方に行った
きっと川の魚達もここまで暑かったら干からびる
川に近づくとそう思える
水に反射する太陽の光が目に染みる
「魚いるよ、たくさんいる」
あ、いるんだ。干からびてるかと思った。
履いていたズボンの裾を捲って足を川に入れた
「つめたっ」
思っていた以上に冷たかった。
彩音は私より子供みたいにトンボを追いかけてたりした
私はと言うと川辺に座り足だけをつけ持ってきていた本を読んでいた
本に夢中になっていたから時間なんて気にしなかった
いつも気づいたら夕方なんてこともあったから。
そして今日もそうだった
気づけば周りは暗く、足もふやけていた
あれ、彩音は。
周りを見渡してもいない
「帰りやがったな…」
ため息をついて立ち上がり足を乾かした
一言ぐらい言ってくれたっていいのに
ちょっとイライラしていたのを抑えて家に帰った
「おかえり」
母は笑顔で出迎えてくれた
だけど、次の言葉に私は絶句した
「彩音は」
え、帰ってきてないの
聞き返すと母は青ざめた
「今、この近くに殺人犯が逃げ込んでいるらしいの、お願いだから彩音を探してきてちょうだい」
え、
私は怖くなった
走ってもう一度川に行った
電灯もないし真っ暗な川沿いは不気味で物静かだった
だけど、確かに私は不思議な音を耳にした
ドゴッドゴッ
まるで何かを石で打ち付けるような鈍い音が。
「彩音」
私は音の鳴るほうへ足を進めた
母に渡された懐中電灯を音の鳴るほうへ向けた
男の人だ。ニット帽を被った男性が何かを石で殴っていた
男は私を見るなり驚いた顔をしたが笑ったようにも見えた
その瞬間私は全身に鳥肌がたった。逃げなきゃって。
もしかしたらあの男が殺人犯なのかもって
「助けて!助けて!」
私は大きな声で叫んで一通りのある方に逃げた
交番にも逃げ込んだ
「どうしたの」
お巡りさんに事情を説明した。
そして姉がいなくなったことも。
お巡りさんは君は家に帰りなさいと言い家まで送ってくれた
「川の方には僕が1度行ってきます。お姉さんについても家出の可能性もありますのでもう少し帰りを待ってあげてください」
その言葉に私や家族は頷くしかかなかった
決して家出する人ではないと分かっていながら。
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