Jelly
湿気を帯びた夏の夜風が、生温く頬を撫でる。川崎の夜は、今日も仕事帰りのビジネスマンたちで飽和している。それを見ても羨ましいなんてかけらも思わないくらい、俺らはいつも仕事に追われてる。

 立て直しのために途中参戦させられた例のプロジェクトがやばい。

 システムの根幹に関わる部分の修正が必要で、適応させるために無理矢理コードを書き換えたらバグが連発。その上要件は追加されていき、リファクタリングしてあるコードまで、壊して直してを繰り返してる。

 いつになっても区切りがついた、という感覚がないのは結構しんどい。結局、元々担当していたプロジェクトにもそんな疲労が影響してく。

 人の流れに乗って早足で道を歩く。角膜にフィルターがかかったみたいに、赤信号が滲んでる。

「ああ、マジで目がチカチカする。俺就職してから絶対視力半分になった」
「なに、それは週末の誘い?」
 神長は喉で笑った。
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