ビーサイド
きっと涼くんも、昨日その誰かと何かうまくいかないことがあったのだろう。
それで同じ境遇の私に手を差し伸べたとすれば、辻褄があう。
まるで何かのドラマのように、目覚めた瞬間冷たくされるのが怖くなって、私はベッドを抜け出して、帰り支度をしようと思い立った。
「おーどこいくの」
「へ、うわ」
急に後ろから抱き寄せられて、朝からこの心臓はまたも速度を速めた。
触れあう素肌が気恥ずかしくて仕方ない。
「帰ろうかと思いまして…」
「帰り道わかんないくせに」
首元に顔を埋められて、かかる息がくすぐったい。
「まだ帰んないでよ」
耳元で聞こえる甘い声。
そんな声、一体どこから出しているんだ。
もう体中の力が抜けてしまい、成す術なくこの腕に抱かれることにした。
理性を保てない自分が怖い。
洋介のことは忘れて、早急に次の相手を探さなきゃいけない。
だってもう私は、28歳だから。
それはいいんだ。
ただ、相手が涼くんというのは絶対にあってはいけない。
私がしたいのは恋愛じゃなくて、結婚。
恋愛の延長線上に結婚がなかったことを知った今、私が選ぶべき相手は結婚相手なのだ。
5つも年下で、バンドマンで、そのうえ女性の影があって。
そんな人絶対だめだし、そもそも叶う見込みすらない。
高鳴る心臓を抑えつけて、必死にそう言い聞かせた。