ビーサイド
「おいし~」
ほっぺが落ちそう、という表現ぴったりにとろけそうな顔で涼くんは言う。
本当に涼くんのお皿から半分に切り分けられたデミグラスハンバーグを一口頬張ると、確かにおいしい。
会社の近くで評判のハンバーグよりも、ずっとおいしい気がする。
おいしいと私が続けて言うと、でしょ、と得意げな顔をする彼。
この食堂のおばちゃんには、私たちがカップルのように見えているのだろうか。
いやそれよりも、“お姉ちゃんと弟”の方がしっくりくるかもしれない。
「そういえば、朱音さんってどこ住んでるの?聞いてないよね?」
「西荻窪だよー近いよね」
「え、まじか。めっちゃ近いじゃん。会いやすくてよかった~」
― ちょっと待って。
今なんて言った?
私は口に含んだハンバーグを誤飲しそうになってしまった。
涼くんの顔を覗うが、彼は何の気ない顔で口いっぱいに白米を頬張って、会いやすくてよかった、それに他意のないことは明らかだった。
完全に弄ばれている。
姉と弟ほどの歳の差がありながら情けない限りであるが、わかっていても一度高鳴ってしまった胸はなかなか鎮まってくれないから、困りものだ。