ビーサイド
「ぼちぼち席変えようかー」
また慎太郎さんの仕切りで、席を変えることになった。
離れた手を少しだけ名残惜しく思ってしまう自分は、本当に簡単な女である。
「連絡先交換しよ?」
だから理久のその言葉に、容易くスマートフォンを取り出していた。
「はい、朱音ちゃんは俺の隣ね!」
謎に最初から私の名前を知っていた慎太郎さんに呼ばれて、いよいよ彼の隣に座る。
この若々しい雰囲気。大きな声。
正直ちょっと苦手なタイプなのだが、彼から香る匂いは物凄く好みであった。
今度の席替えで、慎太郎さんの隣に私、その隣に真琴さんと亜美ちゃん。
向かい側に涼くんとむーちゃん、その隣に理久と真由子という並びになった。
「まずは乾杯ね!」
常に語尾にびっくりマークを付けて話す慎太郎さんと、グラスを合わせる。
「俺声でかい?でかかったら言ってね!」
「いや、まぁはい…ちょっと大きいかも…?」
「うわーまじか!てか敬語やめて!?怖いから!」
― とにかく勢いがすごい。
そして敬語が怖いというのは初めて言われた。
色々とおかしくて声をあげて笑うと、慎太郎さんは急に真剣な顔をして私を見る。
その目はどこか憐れむようにも見えた。
「なんか思ってた感じと違ったなー朱音ちゃん」
「それさっき理久にも言われま…言われた。どう見えてるの?」
これまでの人生で、見た目と印象が違うと言われたことはなかったように思う。
立て続けに言われると、さすがに気になる。
「いや、俺の知り合いに似てるんだよ。理久もそいつ知ってるからさ」
どこかで聞いたこの台詞。
私の胸は急激に鼓動を速めた。
「涼から聞いてない?」
なぜここで涼くんの名前が出るのか。
慎太郎さんのその一言で、私の中の点と点は、1本の線で繋がりかけていた。