ビーサイド
偽物の自分
「聞いてないけど…聞いたこともあるかも」
動揺を隠すために、私はハイボールを一気に飲み干した。
「涼のこと好きなの?」
「好きじゃないよ」
慎太郎さんの問いに食い気味に答えると、彼はなぜか、ごめんと謝る。
「…涼は、やめといたほうがいいよ」
私の頭を撫でながら、慎太郎さんは今日一番小さな声でそう言った。
「だから好きじゃないって」
私はされるがままに呟くようにそう言ったが、これじゃあ信じてもらえるわけもない。
ただ、強く否定することはどうしてだかできなかった。
「なんていうか…わかってたから。涼くんに誰かいるっていうのは」
紡ぎだした言葉に、慎太郎さんは少し目を見開いた。
「やっぱあいつまだそうなんだ」
なぜか慎太郎さんは悲しそうにそう呟き、世間話程度に聞いてね、と続けた。
「朱音ちゃん、そいつにそっくりなんだよ。今日ここ入ってきたときもすぐに涼の知り合いが朱音ちゃんってわかったのは、それで。」
1つの謎が解けた。
慎太郎さんはまだ話し続ける。
「でも見た目は似てるけど、性格は正反対だなって思って。たぶん理久もそういう意味で言ったんだと思うよ」
慎太郎さんが言うには、その涼くんの特別な誰か=私のそっくりさんは、「うるさくて男好きで、誰にでも色目を使うようなやつ」なんだそうだ。
その誰かが、涼くんの元カノなのか今カノなのか、もしくは片思いの相手だったのか。
そういったことは、なんだか怖くて聞けなかった。
いずれにせよ、私はその彼女の代わりということだ。
出会ったあの日からずっと抱いていた疑問の答えは、思っていたよりも簡単であった。