ビーサイド
翌朝。
ひどく痛む頭を起こして、台所でコップ1杯の水を飲み干す。
今日は理久と会う日だ。
昨日の今日で少し会いにくい気持ちもあるが、それよりも話を聞いてほしい気持ちの方が断然大きかった。
誰かに相談しないといられないのは、私の本当にダメなところの1つである。
もう1杯水を飲んで、ソファーに身を預けた。
昨晩はあの後、洋介の手を振り払って1人で帰ってきて、そのまま倒れこむように眠ってしまった。
恐る恐るスマートフォンを手に取ると、案の定、洋介からのメッセージが届いている。
“ちゃんと考えろよ。俺は朱音が好きだから。”
思い返せば、いつだって洋介は私の想いにいワンテンポ遅れてくるのだ。
付き合い始めたあのときもそう。
私がもう諦めようとしたそのときになって、洋介は耳まで真っ赤にして私を好きだと言った。
あのときは、もう死んでもいいってくらいに幸せだったな。
まさか憧れの先輩が、自分を好きだなんて言ってくれて。
学校では内緒にしようなんて言いながら、文化祭でなぜか洋介から手を繋いできたんだよな。
それで学校中にばれて、先輩から陰口言われたりもしたけど、全然なんとも思わなかった。
それほど周りが見えていなくて、本当に頭の中は洋介のことばかりだった。
思い出すだけでむず痒くなるほどに甘い記憶。
私と洋介にもそんな頃があったのだ。
忘れてはいないが思い出すこともなかったその頃に思いを馳せているうちに、また私は眠りに落ちていた。