ビーサイド
「結婚ってさ、そんなに大事?」
また枝豆を両手でつまんだ理久がそう聞く。
その問いは、今の私にはとてつもない難題である。
「…みんなしてるしさ。出産とか子育てとか、やっぱ年齢には逆らえないじゃん」
25歳の男の子にこんなことを話しても、きっとピンとこないだろう。
だが彼は、うーんと唸り、呟くように話し始めた。
理久は、昔付き合っていた年上の彼女に、結婚できないからという理由で振られたことがあるらしい。
「俺は結婚なんて副産物みたいなもんだって思ってたけど、やっぱ女性にとっては違うんだろうね。結婚のために付き合ってるっていうか。だから朱音の気持ちはまーわかるよ」
私はイケメンを見くびっていたようだ。
25歳とはいえ、私なんかよりはるかに濃密な恋愛経験を積んでいることが覗えた。
理久はでも、と話を続ける。
「俺が思うに、朱音はそれで幸せって思えるタイプじゃないよ」
2杯目のレモンサワーは濃いめで、少し苦い。
「別にどっちがいいとか悪いじゃないけど。朱音はそこんとこ折り合いつけられるタイプじゃない気がする。だから今悩んでるんじゃない?」
理久の言葉はすっと私の心に入ってきた。
折り合いをつけられる、それはつまり恋愛感情がない相手と結婚をする、ということを言っているのだろう。
「涼に気持ち伝えて、だめだったらまた考えたらいいよ。それはずるくなんてない」
もう限界だった。
こんなにも優しく私の気持ちをすくい上げてくれる人がいたんだ。
「理久~~~」
「え、泣く!?泣くとこなのここ?」
理久は声を上げて笑いながら、でも優しく、背中をさすってくれた。
偽物が本物になれるなんて思ってない。
だけど、もう自分に嘘をつかなくていいと思っただけで、鉛のように重かった心が急に軽くなるのを感じていた。
私は本当はずっと、誰かに背中を押してほしかっただけなのかもしれなかった。