ビーサイド
本物の彼女
理久と別れた私の足は、通いなれた道を急いでいた。
相変わらず彼からの返信はない。
電話にも出ない。
だから奇襲作戦に出たのだ。
「…ふう…」
大きく深呼吸した私は、思い切ってインターホンを鳴らした。
……
応答がない。
しかし、彼の部屋の窓からは明かりが漏れていた。
部屋にいるのは間違いないはずだ。
案の定、もう一度インターホンを鳴らしてみると、部屋の中から物音がする。
私はおそらく開くであろうドアから、一歩後ろに下がってそのときを待った。
「はーい」
「………え…?」
開いたドアの中にいたのは、見知らぬ女性。
Besaidと胸元にロゴの入ったTシャツは、明らかに彼女の身体にサイズが合っていない。
ワンレンボブの綺麗な栗色の髪をかき上げたとき、知っているあの香りがした。
そして私の驚きは、彼女の存在そのものに対してだけではなかった。
髪型こそ違えど、自分でもなんとなくわかる。
彼女が自分に似ていると。
「…涼になんか用ですか?」
そう言って彼女は微笑んだが、その無理矢理に作った笑顔ですら自分を彷彿とさせた。
いつも私の愛想笑いがばれるのは、こういうことなのだろう。
私は悟った。
彼女が“若菜さん”だ。