ビーサイド
涼くんに見送られて自転車に跨ると、頬に突き刺さる冷気に家に引き返したい気持ちに駆られる。これはもう毎朝のことなのだが。
気付けば今年も残り1ヶ月を切っていた。
通り過ぎる家々には電飾が施され、夜には綺麗にライトアップされる。
自宅から会社への20分の距離ですらクリスマスムードを感じるのだ、繁華街に出るのはいささか憚られた。
毎年クリスマスには、いつもよりちょっといいレストランで食事してイルミネーションを見て、プレゼント交換をする。それが当然のように繰り返されていたが、今年は違う。
今年のクリスマスは、私には関係のない行事なのだ。
「はーあ」
思わず漏れた溜息は、やっぱりすぐ空気に溶けて消えた。
「三ツ矢さん、ちょっといいかな?」
いつも通りタイムカードを押して席に着くとすぐに、部長が私を呼んだ。
まああらかた要件は想像がつく。
「これ。出張のお土産なんだけどさ、休憩時間にでも配ってもらえるかな」
そう言って手渡された紙袋を受け取り、さも嬉しそうにしてお礼を言った。
「余ったのは三ツ矢さん全部持って帰っていいからね」
やったーなんて思ってもいないことを口にして自席に戻ると、隣に座る同期の倉田(くらた)が、呆れたように私を見た。
「休憩室置いとけよ」
「だって…配ってって言われちゃったもん」
「はーお人よしだね~」
そう言って欠伸をしたが、倉田だって私と同じだ。頼まれたら断れないくせに。
私の勤めるこの会社は、社員20名足らずの小さなメーカーである。メーカーというと聞こえがいいが、いわゆる町工場のようなところ。
巷で話題のロケット部品を作れるほどの技術力は、たぶんない。
ここには、20代は私と倉田の2人しかおらず、基本的に力仕事は倉田、その他諸々の雑用は私となったまま、ついに最年少の私たちも30代が目前となった。
この会社に転職して実に6年。いつまでも新人扱いされている私たちは、お互いに唯一の話し相手といっても過言ではない関係だ。
結婚したら辞めようと思っていたこの仕事も、当分は辞められそうにない。
そんな話を、お昼休みに倉田に話していたときであった。