ビーサイド
ビーサイド
12月25日。
今日は渋谷でクリスマスライブに出演する予定だ。
「涼~今日打ち上げ私も行っていいの?」
若菜が甘えたような口調で聞くが、俺の知ったことではない。
「好きにしたら」
そっけなく言ったつもりだが、彼女は嬉しそうに笑った。
あの日、朱音さんと最後に会った日から、俺の若菜に対する感情は完全にもう恋とか愛とか未練とか、そういうものでなくなっていた。
いうなれば、“無”だ。
いつからか朱音さんに対して、若菜ならこうだろうな、と思っていたことが、逆になっていたのだ。
例えば今もそう。
朱音さんだったらきっと無駄に空気を読んで、勝手に1人で暗くなっていそうだ。
そんな姿を想像すると、気味悪くも口元が緩んだ。
若菜の淹れてくれたコーヒーを一口啜るが、彼女の淹れるコーヒーはいつもちょっと薄い。
昔はそれさえ愛おしく思っていたが、今はどうでもいい。
いやむしろ、淹れなくていいとさえ思ってしまう。
「いってらっしゃい」
「ん」
朱音さんのいってらっしゃいとは全然違う。
若菜のそれは、誰にでも言い慣れたそれだからだろうか。
俺がここまで若菜にそっけなくする理由は、1つだけ。
早くここを出ていってほしいからだ。