ビーサイド
静かな病室でうとうとしてきた私は、目を瞑った。
個室しか空きがなかったと言っていたが、保険で賄えるのだろうか、なんてことを考えていたときだ。
ガラガラ
ノックもなく空いた病室のドアに驚いて目をやると、そこに立つ人物はさらに驚きであった。
「…え…?」
幻覚?
「…よかった、間に合った」
幻聴?夢?
だってそうだ。涼くんがここにいるわけがない。
雪が降るほど寒い夜にこんな薄着なのもおかしいし、こんな情けない顔をする人じゃない。私は目を瞑ってそのまま眠ってしまったのかもしれない。
昨晩、夢でいいから会いたいなんて思ったから出てきてくれたのかも。
抱き締められたそのとき、これが夢ならもう覚めなくていいと思った。
氷のように冷え切った体に、お酒の匂いに混じってほのかに香る彼の匂い。
首筋にかかる息は熱く、あの日からずっと忘れられなかった彼の温もりに包まれる。
こんなにも五感を刺激するなんて、夢にしては出来すぎじゃないか。
「好きだよ。朱音さんが好き」
夢かもしれないのに、私は馬鹿みたいに泣いた。
息がうまく吸えなくて、苦しくて、恥ずかしいのに嗚咽は止まらない。
「生きててくれてよかった…気付くの遅くて、ほんとごめん」
ぎゅっと彼の腕の力が強まると、骨があたって少し痛い。
これ、夢じゃないのかな。
頭打って幻覚を見てるだけじゃないのかな。