ビーサイド
現実だなんて信じられるはずがなかった。
涼くんが来てくれただけで嘘みたいなのに、私を好きだなんて。
「ねえほんとに…?頭打っておかしくなってるだけじゃない…?」
恐る恐る聞いた言葉に顔をあげた涼くんの目は少し潤んでいて、それがすごく綺麗だった。
やっぱり私、この人のこと、どこまでも好きだ。
「ほんと。大好き。たぶんずっと好きだったよ」
そんな夢みたいなこと。
ずっとずっと私が欲しかった言葉。
「ずっとそばにいて」
久しぶりのキスは私のせいで少ししょっぱくて、でもきっとそれは一生忘れられなくて。
夢じゃないよね、って何回も聞きながら、いつの間にか降り出した雪を2人で眺めているうちに思い出した。
“何年後かに今日が特別だったと思える日が来るかも”
「本当になった…」
ニュースによると、東京でのホワイトクリスマスは観測史上初だとか。
ほんとなにもかも出来過ぎだ。
あんなに傷ついて、もうやめたいと何度もそう思って、迷って、迷いすぎて正解がわからなくなって、何回も間違えて、色んなものを失って、刹那の幸せに余計苦しくなって、そんなことばっかりだったのに。
全然、楽しいばっかりの恋じゃなかったのに。
涼くんを好きになってよかった。
そうまごうことなく思える。
今この瞬間のために、これまでの色々があったと思えてしまう私は、やっぱり単純なアラサーだ。