ビーサイド
「ねえ朱音さん」
「え…なに?」
彼はいつも突拍子も無いことを言うから、そんな真剣な目で見られると、なにを言われるのか怖い。
私はオムライスに目線を移して聞き返した。
「一緒に暮らそうよ」
やっぱり今回も突拍子もない。
涼くんと毎日一緒にいられるなんて、もちろん幸せしかない。
だけど、ときめきには賞味期限があることを、もう私は知っている。
それにそもそも私は、同棲に失敗もしているし。
「まだちょっと…早くない?」
「そうなの?やだ?」
「やだっていうか…」
はっきりと言わない私に、彼の視線が突き刺さる。
やっぱりあの目には、いつまで経っても慣れない。
「……マンネリっていうの?そういうの怖い」
私が涼くんに嘘をつけるようになることは、たぶんきっとないだろう。
私が正直に話した気持ちに、彼はふっと笑った。
「どんだけ遠回りしたと思ってんの?そんな簡単に俺は離れられないけど」
付き合うことになってから、涼くんは今までまったく読ませてくれなかった心を、少しだけわかりやすく表現してくれるようになっていた。
余裕に満ち溢れたその笑みを、信じてみてもいいのかな。
「…絶対?冷めない?」
「ずっとそばにいるって。もう朱音さん以外とかまじで考えられないから」
彼はそれに続けて、俺にこそ冷めないでよと笑った。
ずっと一緒にいようね、なんて私も、きっと涼くんだって、前に約束した人がいる。
その約束が守られなかったから、今私たちは一緒にいるわけで、その口約束の脆さはちゃんとわかっているよ。
でも、人生なんてなにが起こるかわからないから。
「引越し屋さん、空いてるとこ探さないと」
信じたいものを信じればいいと思うんだ。
fin.