総長さんが甘やかしてくる②(※イラストあり)
「いちゃつくな。行くぞ」
「へっ……あ、はい! お疲れさまです!」
「ハーイ。おつかれ」
(いまの……)
なんだか意味深に聞こえたスミレさんの言葉が引っかかりながらも、裏通りに幻さんが待ってくれていることに気をとられていた。
「あれじゃねーか?」
「あ、そうです!」
停まっていたのは軽トラックだった。
中には、仕事着姿の幻さんが。
「傘、ありがとうございました」
すぐそこなので、と遠慮したのに
車の前まで傘をさしてきてくれたサトルさん。
面倒見がいいのは、やっぱり弟さんがいるのも大きいのだろうか。
サトルさんにお辞儀すると助手席に乗り込んだ。
「少し、待てるか」
「……? はい」
幻さんが運転席から降りていく。
サトルさんに近づいていくと、深々と一礼した。
傘もさしていない。
見かねたサトルさんが
慌てて幻さんに傘を差し出したとき――。
す み ま せ ん
そう、幻さんが言ったように見えた。
もちろん、聞こえていない。
そう見えたというだけだ。
なにか話しているけれど、聞こえない。
車内までは二人の声は届かない。
流れているのは――、険悪なムード。
(……とめなきゃ)
今、すぐに。
二人を止めなきゃ。
【幻くんとサトルのこと。よろしくね】
スミレさんの言葉が頭に浮かぶ。