あなたの愛になりたい
捻り出した答えに、お兄さんは一瞬の間の後にボソッと呟いた。
「お前信じてねぇだろ」
突然、自分はヴァンパイアだ、なんて言われて、はいそうですかとそのまま信じられる人がこの現代社会にいるとしたら見てみたい。
私からしたら目の前にいるのは、ただ顔の綺麗なちょっと犬歯が立派な普通の男の人だ。
確かにその牙にも見える犬歯は立派ではあるけど、流石に信じられるわけがない。
懐疑的な目を向けると諦めたようにガシガシと頭をかいてどかっと前のめりになった。
お茶を一口すすると、ニヤリと笑って饒舌に話し出した。
「昔話をしてやる。まぁ軽く五、六十年くらい前の話か」
なんて言い出すものだから、チョロい私は、お兄さんいくつ、なんて聞いてしまった。
「ははっ。歳は覚えてねぇなぁ。この体になって、体の時間が止まってからは年齢なんて数えても無駄だって悟ったからな」
「ふーん」
「なんだよ、やっぱ信じねぇってか?ちょっとまてよ」
よほど信じてもらえないのが嫌なのか、細かい年齢を導きだそうとどうやら記憶と奮闘している。
どうみたって、いってて三十代前半な見た目だ。
「あー……あれが五十年くらい前として、そん時のあいつが六十くらいか。てことは、まぁ百は超えてるな」
「……あっそ」
「お前、聞いといてなんて適当な返事なんだ」
「良いから良いから。続き、どうぞ」
聞いた私がバカだった、と思う返答が返ってきたので深く追求はせずに続きを促す。
それが不満だったのか、小さく舌打ちしたな、この男。
私もこめかみがピクッと動いたけれど、お互い様なので何も言わずに続きを待った。