あなたの愛になりたい

やがてゆっくりと、言葉を繋ぐ。
紡がれた物語は郷愁漂う雰囲気で茶々をいれる気はなくなった。

「俺の生まれは貧しい村だったんだよ。山の上でね。近くには川もあって、長閑で。気候は穏やかだとは言いにくいが食うに困らない程度には米も畑も耕せたもんだ。今となってはもう、様変わりしすぎててそれがどこになるんだかな。場所はともかく、その村には幼馴染ってやつがいたんだよ。近所でも評判の娘でね。孝行娘で器量がよくて、俺は仲が良かったのが自慢でもあったんだ」

どこか遠い目をして、記憶を手繰り寄せるように穏やかに話す。
その姿はまるで本当に故郷を、その幼馴染みを思い出を話しながら話しているようで。
それが本当だとしたら、この人は本当にヴァンパイアなのかもしれない、なんて思った。

「二十歳そこそこの時にその幼馴染と結婚したんだ。当時としちゃ遅いくらいだったが、互いに相手も居なくてな。まぁ居なかったから成り行きで、というのがあったんだがな。好きだなんだというより以前に、そうそう外に出ていくような事もなかったからな、それが村の中にいる年若の男女で、中の良かった俺たちが一緒になるなんてのはある種、当たり前ってわけだ」

今となっては出会いのツールなんて沢山あるけれど、インターネットも電話さえも無い時代だとしたら出会って恋をしてなんてことは大きな事だろう。
特に田舎とあっては街中でばったり出会った人に憧れる、なんてこともできなかったのだろうと思えば幼馴染みと結婚するというのは確かにごく当たり前の成り行きなのだろう。

「結婚生活は穏やかなものだったな。子供はすぐにはできなかったが、日々の暮らしに困ることもなくそれなりにな。……何年かが経って、ちょうど山仕事に出かけた時のことだ」

深く深くため息をついて、こちらを見る。
その瞳がゆらゆらと揺れているように感じるのは気のせいだろうか?

「お前が俺に言ったのと、同じようなことだったよ。『お前は顔が美しいね。だから仲間にした』だとさ」


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