あなたの愛になりたい

店内は大いに賑わっている。
外を練り歩いていたリア充さん達がお腹を満たしにちらほらと入っているお陰でお店の雰囲気は客観的に見ればなんだか滑稽ではあるけれど。
普通のお客さんとの割合は五分五分といったところで、当初の想定よりも入っているなという印象。
お店の装飾もジャックオランタンが飾られていたり、黒やオレンジ、それに紫なんかで布を張ってドレープにしていたりとそれなりだし、賑やかではあるけれど、やっぱり異様な光景だと思わないでもない。

なんて、傍観者だったら思うのだろうけれど、いちスタッフとしてはそんなことを言う暇などなく動き回っている。
フードの盛り付けから、運びにいくのも、ドリンクを作るのもいつものメンバーでやっているにも関わらずフル回転だ。
誰だ、ハロウィーンコスプレのお客様に合言葉で1ドリンクサービスなんて案を出したのは。
お陰でドリンクを作る手間もあるし、スタッフは呼び止められるしで意外に時間が取られるじゃないか。
などと考えたけれどその案を出したのは他でもなく店長だったのを思い出して脱力しかけた。
しかたない。
あちらは店の責任者で、私はしがない従業員の一人だ。
文句が言える立場であるはずもなく、課せられた仕事を精一杯にするしかないのだ。
思い直した私は、俄然仕事をこなしてようやく少し落ち着いてきたのはさっきまで茜色だった空が、もうすっかりと深い黒になった頃だった。


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