あなたの愛になりたい
「と、いうわけでして」
ことん、とお茶を入れて私はその人の正面に座った。
「何がだ。何がどうして脈絡もなく『と、いうわけ』なんだ。なんで俺はココにいるんだ?ていうかココどこだ?」
ココ、とは屋根もあり、明かりもある正真正銘我が家だ。
狭いアパートの中で、今、私たちはちゃぶ台を囲んでいる。
「いやぁ。私も連れて帰るかは悩んだわけですけど。でもねぇ。なんていうか私はまだあそこでバイト続けたいからねぇ。裏とは言え、お店のあんなところでのたれられても嫌だし?」
「だし、なんだ?」
ぶすくれた顔をして私を見る。
そんなにじとじとした目ではその美しい顔が半減だなぁと思いつつもその場を和ませるべく私は勤めて明るく振る舞った。
「おにーさんの顔に光る物を見た!ちなみにここは私の家です」
「……あ?」
意味がわからん、という顔を向けられまぁそうでしょう、そうでしょうと頷く私。
逆の立場なら私も意味がわからないもの。
温かいお茶を一口飲むと落ち着く。
バイト帰りに半袖の全然起きる気配の無い大人の男性を引きずりながらタクシーを拾い、家まで連れ帰るという中々な労働をしたわけで、それなりに疲れた。
あくせく働いていたはずなのに、タクシーの運転手さんには『彼氏さん、寝ちゃったんですか?』なんて声をかけられ、雰囲気だけ見ればハロウィーンで盛り上がった人の仲間入りを果たした私は内心複雑な心境で『そうなんですよ、困ったもので』と返しておいた。
最近は色んなイベントがあるもんですね、なんて人のいいタクシーの運転手さんは部屋の近くまでこの人を一緒に運んでくれてありがたかった。