あなたの愛になりたい

「お兄さんはさ、何であんなところにいたの?」

何でわざわざ私がこの人を家まで連れ帰ったか、なんていうのは説明のしようがなくて、とりあえずは率直な疑問をぶつける。

「……忘れた。お前は何で俺をこんなところに連れてきたんだよ」

返ってきたのはつれない答えで、まぁ仕方ない。
誰にだって言いたくないことのひとつやふたつ、あるものだ。
そして今度は私が考える番だ。
何で私がこの人を連れ帰ったか、なんて。
それはもう何かが引っ掛かった、としか言いようがなくて、それを口にしたところでこの人が納得するかというとなんとも言えない。
なのでそれを口にするのはもうやめて、私のしがない人生相談にのってもらうことにした。

「うーん。ちょっと言って信じてもらえるような話じゃないから割愛します!」
「割愛すんなよ。大事なところだろ」
「いやね、最近、私ついてなくて。お店の裏には変な仮装したお兄さんがいるし?付き合っち彼氏にはフラれるし」
「無視かよ。仮装なんてしてねぇし」
「その牙はなんなのよ」
「自前だ」
「あっそう」

立派な犬歯だこと、と続けると、適当かよと目の前の男性は不貞腐れた。
それには気付かないふりをして私はこの一週間のうちに積もった愚痴を話す。
フラれた話なんて死ぬほどしたのに、まだまだ愚痴は出てくるものだ。
別れた直後は多少の涙も出たけれど、今じゃ涙よりも愚痴の方が膨れ上がってる。
この負けん気の強さにあいつは嫌気がさしたんだろうけど。
冷静に分析できたところでなかなか性格は変えられないし、終わったことだけど。
人生21年生きてきたけど、好いた惚れたを何度か繰り返しても、この人だ、なんて運命の出会いはしたことがない。
好きというのと、変わらない愛というのは別次元の話なのかな。


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