あなたの愛になりたい
「愛って難解」
「阿呆か」
「お兄さん、愛ってなんだろう?」
「知るかよ」
このお兄さん、短気だなぁ。
まぁ私も人のことは言えないけど。
「愛なんてのは……」
「え?」
「愛なんてのはまともな人間に宿るもんだろ。大丈夫だよ、お前も」
「お兄さんだって、まともな人間じゃない」
「だとよかったんだけどな」
その美しい顔はうっすらと笑っているはずなのに、寂しそうだ。
何を言ってもその寂しさを拭えそうになくて、見合う答えを考えあぐねる。
「例えばの話だ」
私が戸惑っていると、お兄さんは大きなため息を吐いて、仕方がないと言うように話し出した。
「ヴァンパイアって存在があったとする。お前はその存在をどう思う?」
「また話が急に飛んだなぁ。……ヴァンパイアって吸血鬼でしょ?普通に怖い、かな。うーん、でも永遠の命って羨ましいかも」
「怖くて、でも羨ましい、ね。まぁわからなくもないか」
遠い目をしたその先に何が映っているのかは分からないけれど、この人がもつ寂しさが色を濃くした気がする。
「じゃあ、そのヴァンパイアが今、お前の目の前にいるとしたら、どうだ?」
「は?」
一応聞き返したもなの、憂いた瞳はいたって真面目で私も思わず真面目になる。
目の前、ね。
目の前といえば、お兄さん。
じっと見つめ合い、沈黙が流れる。
数十秒の間、いや、実際には数秒程度の間なのかもしれないけど、じっとじっと、見つめる。
見るほどに綺麗な顔だ。
「ヴァンパイアが綺麗な顔してるっていうのは本当なんだね」