【短編】井上さんの毛先が今日も
「あぁ」
それだけ言ってプリントを受け取ると、彼女はすぐにペンを持って問題に向かった。
「あぁ」じゃないよ。「あぁ」じゃ。
バレたくない、バレたい、最近はその狭間の感情ばかり。
ずっと目で追ってるくせに、合いそうになると慌ててそらして。
後ろの席から、彼女の毛先を眺めることしかできない。
井上 柑菜(いのうえ かんな)
机の上、芯を出さないままシャーペンで彼女の名前を書く。
パンッ
っ?!
頭に軽く痛みが走って、慌てて顔を上げると、先生がこちらを睨んでいた。
『さっさと問題解け』
って顔だ。
先生と目でやり取りをして、プリントに目をやり、再び目の前の毛先に目をやる。