【短編】井上さんの毛先が今日も


「か、川澄くん、な、なんで?」


いつも小さな顔を隠している栗色の髪の毛が全て、後ろに縛られている。


残っているのは、斜めに分けられた前髪と少しのおくれげ。


嘘だろう。


これ、ポニーテールじゃん。


「忘れ物、取りに。井上さんは?」


「あ、わ、私も」


少し耳が赤くなっている。
やっぱり僕のこと怖いとか近寄りがたいとかそういう感じだろうか。


友達と一緒にいるときに比べてビクビクしてる気がする。いや、絶対そうだ。


井上さんは、遠慮がちにこちらに向かって歩くと、自分の席へと向かって机の中をのぞいた。


「あった。よかったぁぁ」


机の中を覗く、後ろ姿。
肩を覆う四角い襟に、ポニーテールの毛先が触れている。


見たいなって、思ってたけど、こんなにすぐに叶っちゃうもんなの。


っていうかこれ、他の男みたの。ここに来るまでに何人の男が、、、。


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